四季旅録:牛田貴志男

国内と海外の旅行記録(季節別):牛田貴志男

群馬県・長柄神社の桜(牛田貴志男)

長柄(ながら)神社の森は、群馬県邑楽郡邑楽町(おうらぐんおうらまち)の南部を東西に走る県道矢島・大泉線の近くにあります。どこにでもある鎮守の森の風景が広がり、境内は早春の日差しの中でひっそりと静まりかえっています。

参道に入ると、両側に高さ6~8メートルの桜の木が並びます。その奥に、見上げるような高い古木が1本立っています。エドヒガンザクラ。地上1メートルほどのところから太い幹が2本に分かれて上へ伸びています。樹高約13メートル。樹齢は推定400年という。訪れた年は暖冬で開花が早く、4月ごろ満開でした。大きく張った枝は薄紅色に染まっていました。町教育委員会もこの名木を1989年に町の天然記念物に指定しました。

社殿の裏手に松と杉の木立があります。風が出てきたのか、こずえが揺れ、枝と枝がすれあう音がします。枯れ枝が肩に落ちてきて、思わず首をすくめました。森は、思いのほか広くはありませんでした。

地元の男性は「昔は今の何倍も広かった。それが台風で古木が倒れ、マツクイムシにもやられた。火災が心配、との声もあって、かなり切ったから」と、残念そうに話しています。境内も長い歳月のうちに変わってしまいました。森は1985年(昭和60年)、群馬県の修景美化地域に指定され、町ではケヤキツツジなどを植え、保護の手を打っています。

かつて、邑楽郡一の宮と言われたという社殿に入ります。彫刻や天井の花鳥の絵が古い歴史をうかがわせます。境内の説明板に「大和から来て長柄(ながら)郷を開発した長柄氏が、始祖の事代主命を祭神として草創した」とありました。

現地でガイドをしていた町の文化財保護担当の方は「東毛の平たん地は開発で森が少なくなる。戦争中、この社殿の前に立ち、森の景色を心に刻んで戦地に行った人たちのことを思うと、もっとしっかり保護しなければね」と語っていました。

<あし>東武小泉線篠塚駅から、南の方向へ徒歩で約20分。


牛田貴志男(Ushida Kishio)